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夏の夜

「それじゃ秋祭りの総大将は正太郎で決まりっちゅうことで・・・今日はお開き。」
「待ってくれ。正太郎は謹慎の身やろ。」
寄り合いでずっと発言しなかった清次が口を開いた。

「そりゃあ証拠不十分で終わった話じゃ。証拠がなけりゃ無罪じゃで。」
「ほうじゃ、ほうじゃ。正太郎が盗みなぞするわけがなかろう。」
「お前は何が言いたいんじゃ。ほなら他に誰が総大将をするんなら。言うてみい。」

皆、正太郎に盗み癖があるのは知っていた。しかし証拠が出てきたことはない。
別に清次は総大将になりたい訳ではなかった。
正太郎が村伝統の秋祭り総大将になるのが我慢ならなかったのだ。

思わず発言してしまったことに清次は後悔していた。

「いや、他の誰かは考えてねえ・・・」
「じゃったら出しゃばるんじゃねえ。」
「今度こそお開きだべ。皆さん次回もよろしゅう。」


夕焼けが眩しい帰り道、清次は両親と話していたことを思い出していた。

「わしゃあもう我慢ならんのじゃ。」
「やめんさい。この村におれんようになるよ。」
「そうじゃあ。正太郎の悪さは皆わかっとんじゃ。でものう
 庄屋の息子じゃけ逆らうと俺等も生きていけんのじゃ。」

清次は、昔から人の褌で相撲をとり不正を繰り返している正太郎が大嫌いだった。
正太郎に歯向かって、村八分になった者がいるのも知っている。
これから先、死ぬまで逆らうことは許されないのだ。どんな理不尽なことにも目を瞑り
続けるのだろう。先祖代々そうしてきたように。それが村社会というものだ。
バカ正直に生きてきた自分に嫌気がさす。


その時、後ろから図太い声が聞こえた。

「清次、ちょお待てや。」
「わりゃあ。わしに意見するんか。」

清次が振り返ると正太郎が物凄い形相で睨んでいた。
正太郎は6尺を超える大男。皆が逆らわないのはこの図体のでかさもあるのだ。

清次は黙ったまま動かない。

「おう。さっきの威勢はどこいった。」
「しょうべんもらしてんのかあ。」

いつもの取り巻きも後ろから湧いてきた。3人、いや4人か。
清次は、足を踏み出すタイミングを図っていた。この人数だと確実にやられる。

「なんか言えや。」
「正ちゃん。もうやっちゃうべ。」

いまだ。あぜ道の泥を蹴り上げ、取り巻きが怯んだ隙に全力で逃げた。

「おどりゃあ。ぶっころす。おめえらはよ捕まええ。」

ハアハア・・・無我夢中で周囲は見えていない。清次の逃げ足は速かった。
もう後戻りはできない。清次はこの村から抜け出す覚悟を決めた。
しかし無計画だったので何の準備もしていない。両親に別れも言いたい。

今、清次が走っているのは自宅とは逆の方向だ。なんとか追手を撒いて戻らなくては。
走りながら後ろを振り返った。追手はまだいるが、かなり後方だ。ゆるいコーナーで
相手から姿を遮った隙に、横のヤブに入り気配を消した。

「くっそお。清次のヤツどこにいったあ。」
「見つけたらタダじゃ済まさんぞ。」

姿はよく見えなかったが、そのまま真っ直ぐ追っかけていったようだ。
一応用心してヤブを抜け、山道沿いの別ルートで自宅まで戻った。

「おとん。おかん。」
「清次、遅かったのお。どうしたんじゃ泥まみれじゃねえか。はよ入れ。」
「なんかあったんかい。」

清次は動かない。両親の顔を見据えて、

「わしはこれから村を出る。」
「いままでありがとう。おとん、おかんのことは忘れねえ。」
「親不孝を許してつかあさい。」

清次は深々と頭を下げた。申し訳ない気持ちと不安が渦巻き胸が押し潰される。
不思議と涙は出なかった。

「清次、何があったんなら。」
「清次・・・・」


「おうおう。泣かせる話やのお」

図太い声が後ろから聞こえた。清次がビクっとして振り返る。
正太郎が仁王立ちになっていた。

「甘えのお、清次。おめえはこの村が分かってねえ。」
「わしの目・耳はどれだけあると思っとんのじゃ。すべてお見通しじゃあ。」

正太郎が上から覗き込み、清次の細い肩をがっしり掴み上げた。

「うぐぅ」
「もう逃げられんぞ。こっちこいやあ。」

「堪忍してつかあさい。なんでもします。」
両親がとめに入ったが、正太郎はギロリと睨み。

「こりゃあ本人の話じゃけえ邪魔すんな。」
「本人だけで責任とれん時には、また改めて寄らせてもらうわ。」


バッシャ。
水をかけられ清次は目を開けた。
どうやら気絶してしまったようだ。両腕を縛られ木に吊るされている。
全身が痛む。片目が上手く開かない。

「誰が寝てええ言うた。」
「清次は、わしのことが気に入らんのか。おおっ。」
ドゴォッ。重く大きい拳が下腹部にめり込んだ。

鈍い痛みと共に酸っぱいモノが込み上げてきた。
「ウゲェェェ」
もう胃の中の物は出尽くしたのだろう。口からは胃液と涎がだらしなく
垂れている。清次は周りの声が遠く聞こえ、思考もはっきりしなく
なっていた。

「もうええんじゃないか」
取り巻きのひとり、助八がたまらず口にした。

「なんじゃあ。おめえも吊るされたいんかい。」
「いや、そうじゃねえ。もう虫の息じゃねえか。」

正太郎が目を細め助八をじっと見る。

「おめえがやれ。おめえが清次を叩き直せや。」
「やらねえと今度はおめえの番じゃあ。」

助八は1点を見つめ固まっている。

「はよやれやあああああっ。」

我に返り、助八は清次の頬を殴った。ペチッと情けない音がして清次の顔が
ゆれただけだった。

「そげなへっぴり腰でどうするんじゃあ。ワザとやっとんのかあ。」

助八は少し離れ、奇声をあげ勢い良く飛び出しながら拳を振り上げた。

「うおぉぉぉぉ」
足の踏み出すタイミングと拳を出すタイミングがずれている。
拳は清次の顔を外れ、体と体がもつれクリンチの状態になった。

「清次しっかりしろ。縄切って向こうの崖に落としてやっから逃げろ。」

助八が周囲に悟られないように耳元で囁いた。
清次は何かおきたのかしばらく分からなかった。

「なんしとんじゃあああ。おめえヤル気あるんか。」

助八はヤジ飛ばした取り巻きを睨みつけ、取り巻きの近くへ駆け出した。

「なんや、やるんか・・・」

後退りした取り巻きを無視して、そこにあった人の頭ほどある大きな石を両手で掴んだ。
そしてまた奇声をあげ清次のほうへ石を持ち上げながら走りだした。

「いやああああぁぁ。」
今度は手前でつんのめり、清次の顔ではなくその上の腕を固定している縄に
石が食い込んだ。

メリメリ。ブチブチ。
縄が切れ、勢いで2人の体が転がり木の後ろにあった崖に落っこちた。
崖はかなり高く急な勾配だが、一番下は草が生い茂っているので、大した着地衝撃
はなかったようだ。

「おいっ、清次っ。大丈夫か。」
助八は、清次の頬を叩いた。
「うううっ。」

清次の腕に残ってる縄をほどき、
「よし。ちょっと待っとれ。」

近くを流れている川で水を汲んで、清次に飲ませた。

「すぐに追手がくるじゃろうから、わしゃあもう行かんといけん。」
「清次もすぐに逃げるんじゃ。ここは集会所の裏じゃ。この川を下ると隣村じゃけ。」

清次は渾身の力を込めて上半身を起こした。
「あ、ありがとう・・・」

「何言うとんじゃ。わしは今まで正太郎のいいなりじゃった。これからもそうじゃろう。」
「せめえ村ん中で生きていくためには仕方ないんじゃ。だけんど清次は間違っちゃねえ。」
「わしはこんなことしかしてやれん。いままでの仕打ちを堪忍してつかあさい。」

助八は頭を地面につけ、すぐさま崖に向かって走った。


助八はその夜、清次の代わりに袋叩きにあい、数日間動けなかった。
助八を痛めつけることで満足したのか、清次の両親に矛先が向けられることはなかった。

その後、清次の姿を見た者はいない。




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徒然 雑文 | Comments(2) | Trackbacks(-)

コメント

No title
編集
こんばんは。わくわくして読みましたよ。続きが気になる短編でした。
アカツメさんはこの手の才能もあるのでしょうか。また、期待してますよ。
子供の頃はマンガカという大変ヤクザな夢を持っていて、その時にはちょっとした短編小説なんかも手を出してみました。結局、読書量が圧倒的に不足していて(今でもそうですが)、沸いてくるナニカが無いので、そんなクリエィティブな仕事は非常にあっさりと諦めましたけど、あれは人生のなかで最も賢明な選択でした笑
いまや趣味としてもそのあたりには手がだせません。せいぜいブログ、という感じです笑 (ブログも創作活動の一部かもしれませんが)
2017年08月28日(Mon) 23:11
Re: No title
編集
ドラのび太 さん

こんにちは。

いやいや褒めすぎですよ。自分にセンスがないのは良く分かってます。
まだ数作しか書いていませんが、文章の幅を広げる練習です。練習で読まされる
皆様には申し訳ありません。やはり公の場に公開しないと緊張感もなくあまり
練習にならないのです。

文体を変えて表現、物語の組み立て、セリフ、心理描写など、いつもの記事とは
違うことを色々考えなくてはならないので新鮮で楽しいです。とは言えあまり時間を
かけられないので、時代考証や方言やその他辻褄合わせなどは適当です。

難しいのは視点がブレないようにすることと、背景・動き・心理の描写ですね。
ありきたりな表現しかできません。もちろん物語自体もどこかで読んだような凡庸な
ことしか思いつきません。

一応ルールがあって、普段つかう!?は使わない。もちろん(笑)もなしです。
そういう記号は使わずに、表現するのも練習です。今回は・・・を使っちゃいました。
何もない間を表現するは今後の課題ですね。短編で難しいのは設定の説明ですが、
これもなるべく説明セリフにならないようにしています。

マンガカ私も憧れましたね。子供の頃は絵を書くことは好きだったのですが、文章を
書くのが苦手で、早々に諦めました。本を読むのが好きになったのは高校の頃から
ですね。とは言え名作と言われる小説はほとんど読んでませんし、読書量はしれてます。

実は、3記事分くらいの少し長い話も書いてるのですがオチが弱すぎてボツに
なってます。いいオチが思いついたらアップします。
2017年08月29日(Tue) 13:08












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プロフィール

アカツメ

Author:アカツメ
少ないおこづかいで古い国産時計の収集をしています。時計の紹介・修理・改造・関連話・お得な情報などの記事をボチボチと書いています。

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